高濃度ビタミンC点滴療法

○ 高濃度ビタミンC点滴療法とは

今、最も注目されているガンの治療法です。ビタミンCを60から100gを点滴投与すると、過酸化水素を生成、正常細胞に影響を与えずに癌細胞の核濃縮・ 細胞死を誘導するというものです。
がんに対する高濃度ビタミンC点滴療法は、ノーベル賞を2度受賞したライナス・ポーリング博士らが、自らのデータから、「ビタミンCでがんが治る」ことを 発表した1970年代から行われています。しかし、すぐさま否定的な論文が続けて発表されたため、その後はあまり注目されることはありませんでした。とこ ろが、2005年にアメリカの国立衛生研究所(NIH), 国立ガンセンター(NCI), 食品薬品局(FDA)の研究者が共同で高濃度ビタミンC点滴療法が癌の化学療法剤として可能性があることをアメリカ科学アカデミー紀要(PNAS)に発表 し、同じグループの研究者らが高濃度ビタミンC療法が著効した3症例をカナダ医師会雑誌に発表しました。現在、米国では副作用のない癌治療として約1万人 の医師・自然療法医・統合代替医療医が導入し、米国各地で高濃度ビタミンC点滴療法の研修会が開催されています。


【文 献】
1. Chen Q et al: Proc Natl Acad Sci U S A. 2005; 102(38):13604-9
2. Padayatty SJ: CMAJ. 2006 March 28; 174(7): 937-942



○がん細胞を選択的に攻撃する

NIHの論文では、抗酸化物質であるビタミンCは、むしろ強い酸化作用を誘導 しがん細胞を殺すこと、さらに、正常細胞には何のダメージも与えないことが示されました。
ビタミンCが高濃度になると、強い酸化作用をもつヒド ロキシラジカルを誘します。がん細胞は、カタラーゼ(ヒドロキシルラジカルを中和することができる酵素)活性が低いという特徴があり、ヒドロキシルラジカ ルに攻撃されやすい環境にあります。一方、正常細胞はカタラーゼ活性が高く、ヒドロキシルラジカルによる悪影響を受けにくいのです。
また、がん細胞はブドウ糖を取り込みやすいという性質 があり、ブドウ糖と構造が似ているビタミンCはがん細胞に取り込まれやすいという特徴があります。そのため、がん細胞には正常細胞より多くのヒドロキシラ ジカルが発生しやすくなります。これが、ビタミンC療法が、がん細胞に特異的に働くメカニズムであり、実際には、ビタミンCの血液中濃度が350〜 400mg/dl(22〜23mM)前後に達すると強い抗腫瘍効果が発揮されるので、高濃度ビタミンC点滴療法ではこの濃度を目標とします。
ビタミンCが役割を果たすためには、血液中の濃度が重 要です。目標とする400mg/dlは経口投与では到達することのできない濃度であり、ビタミンC療法が点滴で行われるのはそのためで、実際には、点滴終 了直後に採血をして、血液中濃度を評価します。ビタミンCの血中濃度には、患者さんの全身状態やがんの拡がり、栄養状態、喫煙の有無などさまざまな要素が 影響します。



Pharmacologic ascorbic acid concentrations selectively kill cancer cells: Action as a pro-drug to deliver hydrogen peroxide to tissues.
Qi Chen*†, Michael Graham Espey‡, Murali C. Krishna‡, James B. Mitchell‡, Christopher P. Corpe*, Garry R. Buettner§, Emily Shacter†, and Mark Levine*



○高濃度ビタミンC点滴療法で期待される効果

がん細胞を死滅させる効果
こ の療法単独でどの程度の効果があるかについてはまだ十分なデータはありません。効果例は報告されていますが、今後、臨床試験で検証する必要があります。現 段階では、すべてのがんに同等の効果があるとはいえませんが、標準的治療と併用することで治療効果を高める可能性や、標準的治療で効果が得られない症例に は単独でも行う価値はあると思います。

がん治療としては副作用が少ない

心不全、腎不全、著明な胸腹水など、水分負荷が全身状態の悪化につながる場 合、高濃度ビタミンC点滴療法は行えません。
ビタミンCそのものに大きな副作用はないため、しっかりとしたプログラムに のっとって行えば、重篤な副作用はほとんどありません。ビタミンC療法でみられる副作用は、抗がん剤・放射線の副作用に比べれば非常に軽度です。
抗がん剤や放射線療法は、腫瘍細胞のみならず、正常な細胞にまでダメージを与 えてしまうというマイナス面があります。高濃度ビタミンC点滴療法は、この点においては、従来のがん治療とは異なり、ほとんど正常細胞にダメージを与える ことはありません。

抗がん剤や放射線療法と併用できる。また、それらの副作用を軽減する

放 射線療法を行った場合、程度の差こそあれ、皮膚傷害はほぼ必発です。高濃度ビタミンC点滴療法を併用することによりその程度は軽減され、回復も早まりま す。女性の場合、抗がん剤を使用することで、病気に加えコスメティックな部分が精神的な負担になることが多くみられますが、そのような負担を少しでも軽減 できるのであれば、併用する価値は十分にあるのではないでしょうか。ビタミンCは、ある種の抗がん剤の副作用を軽減する、抗腫瘍効果を高めるというデータ もあります。
ま た、栄養状態や全身状態の悪化を防ぐという点でも大きな意味があります。栄養状態や全身状態の悪化は、抗がん剤の量を制限せざるを得ない原因になり、時に は、治療をスケジュールどおりに遂行できない原因にもなります。つまり、がん治療の足を引っ張る原因となるのです。逆に言えば、栄養状態や全身状態を保つ ことは、より強いがん治療(標準的治療)を受けられる条件でもあります。高濃度ビタミンC点滴療法はその部分においては十分な貢献ができる治療なのです。
さらに、高濃度ビタミンC点滴療法には疼痛緩和の効果も臨床的に確認されてい ます。間接的にステロイドの産生を促すことにより、抗炎症作用を示す、血液中のカルシウムレベルを下げ、骨へのカルシウムの取り込みを促進する、などいく つかのメカニズムが考えられています。

抗ストレス物質としての効果

病 気が与える直接的なストレスと、がんになってしまったという精神的なストレス、そして抗がん剤など治療が与えるストレス。がんの患者は心身ともにストレス を大量に抱えることになります。ストレスは、体内のビタミンCを消費してしまうので、その結果、免疫力が落ち、さらにストレスにも弱い状態に陥ります。が ん患者さんは、精神的なストレスを緩和し、免疫力を高めるためにも、健康な人より大量のビタミンCを必要としているのです。

免疫力が高まる

ビタミンCは免疫をつかさどるビタミンでもあるため、上述のように不足した状 態では、免疫力は低下し感染症を合併しやすい、傷が治りにくい、などの問題が生じます。ビタミンCを補うことは、このような合併症の頻度を減らすことにも つながります。

○適応となる疾患


高濃度ビタミンC治療は、これまでに有効とされている 化学療法や放射線治療に取って代わる治療法ではありません。高濃度ビタミンC治療は次に述べるようなガン患者にのみ適用されるべき治療法です。

(1) 標準的ガン治療が無効の場合

(2) 標準的ガン治療の効果をより確実にする

(3)標準的ガン治療の副作用を少なくする

(4) 良好な体調を維持しながら寛解期を延長させる

(5) 代替治療を希望する



○治療の実際

ま ず、G6PD遺伝子の異常の有無、腎機能異常の有無を調べ、治療が可能かどうかの判断をします。点滴の頻度は、治療をはじめる時点では週に2〜3回が標準 です。抗がん剤や放射線治療と併用される方に対しても、あるいはこの治療法を単独でされる方に対しても、同じ回数で点滴治療を行います。多くは1回で 50g以上のビタミンCを点滴で投与することになります。ビタミンCの投与量によって、点滴時間は変わります。たいていは、1〜2時間です。
がんが完全に消失したという段階になったら、半年ほど は週1回の治療を続けます。その後は、半年あるいは3ヶ月ほど、2週間に1回、その次の段階では月に1回、といったように、だんだん頻度を減らしていきま す。治療の期間については、個々の症例によって変わります。